つるや呉服店
日本の心、和の心。
和服の袖に腕を通す時、懐かしさと新鮮さが入り混じりながら、不思議としっくりくる感じがする。
近代化が進む中、日本の象徴とも言うべき和服を目にする機会も減ってきた。
七五三や成人式、結婚式、卒業式などなど。
着られることが減ってきた和服であるが、日本人の生活のすぐそばに必ず存在している。
今回は、そんな伝統と文化を、時代に合った形でアプローチしている和の心を紡ぐ名店をご紹介します。
それではつるや呉服店、萩生田さんのインタビューをご覧ください。
レポーターには、成人式では絶対着物!という新成人レポーター山名田さんです。
「その人が生まれた時からずっと、人生の節目に寄り添うようなことができるっていうのは、素敵なことですよね。」
インタビュー:山名田
●つるやさんは江戸時代末期から続いているお店とのことですが、お店の歴史など教えてください。
「町田市の鶴川ってご存知ですか。あそこで元々“萩生田呉服店”という屋号で営業していました。そこから私の祖父の代に、今度は立川にもお店を開くことになって、その際に店の名前を創業地である鶴川からとって “つるや”としたそうです。鶴亀で縁起がいいというのもあったと思います。町田のお店は残念ながら昭和に閉めてしまいましたが、今の場所では50年程前から営業しております。私自身は家を継ぐ前に埼玉で修行させてもらい、店に戻ってまいりました。」
●お店のオススメの商品やサービスのこだわりを教えてください。
「どっちかといえばカジュアルというか、洋服でいうジーンズに近いような感じの着物を多数取り揃えていて、それが一応オススメです。他には、こちらのようなお茶人さんが好まれる江戸小紋ですとか、帯なんかもありますね。直近では“小惑星探査機はやぶさ2”応援グッズで、オリジナルベーゴマを作ったりしています。
私自身もそうですが宇宙ファンの間で、Twitterなどを通じて話題になっております。山名田さんと同世代くらいの桜美林大学で造形デザインを学んでいた大学生がデザインしてくれた手ぬぐいは、ゆかたを染める染工場で染めて販売しました。何度も重版がかかって人気商品なんですよ。」
●すごいですね。たぶん巻き方を知らない方も結構いらっしゃいますよね。
「ベーゴマを買いに、遠くは広島や、大阪、名古屋の宇宙ファンが訪れてくれます。度々来店されて、宇宙話で盛り上がるので、東京などへの出張ついでに淵野辺へ来られているのかと思って聞いたら、実は違うんですって。JAXAを見に来たファンの人に広がって、「JAXA相模原キャンパスに行った時にはつるやってお店もあるからに寄ろう」みたいなことがあります。嬉しいですね。JAXA、はやぶさのお陰で相模原市の知名度、来場者共に増えていますし、シティーセールスにつながっていると思います。
●じゃあ、はやぶさ目的で来店してもらって、ついでに着物のことも知ってもらっていると。
「そう、来店のきっかけとして“はやぶさ”が役に立っている事も事実ですね。それまで呉服店には用が無いって思われていた方も、“はやぶさ、はやぶさ2応援グッズ”をきっかけにつるや呉服店の事も知ってもらえる。ひいては、着物にもつながる(!?)。以前には、ゆかた用の帯で“はやぶさ”に似た宇宙柄のものを仕入れた事が有りました。他にも星やスプートニックみたいな柄が配置されていて、ディスプレイに良いなぁって思っていたんです。ネットでも紹介したところ、すぐに売れてしまいました。宇宙を通じて新しいお客様が来店してくれている事は嬉しい事実です。」
●宇宙は、新しいデザインにも繋がっていきますね。
「そうですね。あとは、サービスとして、日本に来る外国人に楽しんでもらえるような着物体験などやっています。「着物を着て日本文化体験をしよう!」みたいなやつなんです。「着物についてもっと勉強しようパッケージ」とか、「自分で着て好きなところに出かけてくださいパッケージ」とか。外国からのお客さんは目に見えて増加しているので、こういった需要が増えていくんじゃないかと思っています。お土産みたいにパッと買えるものじゃなく、体験をしていただく商品です。遠くからだとニューヨークにお住まいの方がつるやのホームページから予約してくださって、実際に来てくれたことがありました。お二人で参加されて、お茶席を体験し、桜美林学園の近くにある箭幹八幡様でお花見をしたりしました。店に帰ってからは撮影会。淵野辺の居酒屋にも行きましたよ。実はつるやは「世界で唯一英語、モンゴル語が通じる呉服店」をキャッチフレーズに、日本文化を学ぶ授業にも力を入れています。12月には桜美林大学の留学生の皆さんが20人位来店されて、着物について学びます。このような授業は年数回、10年くらい前から行っております。中にはとても背が高かったり、体格の良い留学生もいるので、特殊サイズ着物も用意しているところです。」
●お店の客層や男女比について教えてください。
「男女比は女性が8割ですね。着物だけだったら9割ですね。でも最近、お茶人さんだけでなく、弓道をされている方で、男性のお客さんが増えているように感じます。なんか相模原はとても恵まれた環境らしく、弓矢を射る場所が、多いらしいんですよ。警察官の方や大学の先生などで弓道をされているお客様も多いですね。男性ではそういう方に納めたりしもしています。」
●お店から見た相模原はどういった街ですか?
「逆に若い人から見てどうですか?程よく田舎ですよね(笑)」
●そうですね(笑)
「程よく何にもないし(笑)」
●私は上溝に住んでいるんですけれど、自治会が元気な街で、地域の繋がりがまだ希薄じゃない地域なんですよ。都心の学校に通っているんですけれど、そこで地元の子と話していると「え、なんでそんなに近所の人の名前知っているの!?」みたいな感じですごく驚かれます。だから相模原は周りの人との繋がりが強いのかなって思っちゃいます。
「そうだよね。淵野辺の駅でやっているイベントなんかも、元々商店街だけで企画していたんだけど、最近はPTAの方や地元有志の方など皆でもり上げてくださり、“ふちのべ星援隊”という団体で活動を始めました。僕達もお店がこれだけしか商店街ですので、出来る事には限界があるんです。でも地域の方が集まると、例えばコンピューターがすごく得意な人、クラフトがすごく得意な人、色んな得意を持った人が星援隊のメンバーとして一緒に企画することで、その場所で色々なことができるようになる。商店街にとっても嬉しい相乗効果があります。例えば先日、星援隊の企画で手作りマルシェイベントも行われました。一緒にやれば、星援隊の人も嬉しいし、街が盛り上がれば商店街も嬉しい。最近の銀河まつりなんかもそうです。そして、活動を通しどんどん地域の人たちの顔が見えるようになってきました。そこに淵野辺近辺に通う学生さんも入ってきてくれます。今の学生は、何かイベントがあると手伝いに来てくれて、その後の打ち上げまでずっと一緒に来てくれたりするんです。学生さんにとってもそういうのが他の街では体験できないことなのかなって思っています。」
「ただ発信するだけじゃなくて、ここにあるってことで、ネット上の世界とリアルな世界がぶつかりやすい」
●私が成人するにあたって、着物屋さんに行ってみたら、今は“洗える”着物があるんですね。着物って遠い存在だと思っていたので、洗えるなら私服にもなるかもしれないって思いました。
「そうですね。桜美林に来る留学生なんかは、着物の勉強をするコースがあって、そのコースの学生さんは、洗える着物と帯を教材として揃えてくれるのです。留学生は本当に熱心に学ぶし、覚えるのも早い。さらにきものを自由に着てくれます。8月に帰国する留学生も多いのですが、帰国直前まで横浜の花火とかに着て楽しんでいるようです。きものに苦手意識や先入観を持たずに接してくれるので、どんどんどんどんイベントがあると着てってくれるんです。“洗える”事で、気兼ねなく着用しきものの良さを楽しんでくれているって事もあると思います。実はつるやでは洗えるタイプの着物も外国人旅行者の着物体験用に用意しています。長襦袢の袖を着物に縫いつけて、軽く着られるように工夫をしたりもしています。本来のルールからは外れてしまうかもしれませんが、きもの体験の選択肢を広げる事でより深く興味を持っていただけるのではないかとも考えています。体験してくださった方の反応も良く、帰国後につるやでの体験を話してくれるようです。結果それが店の口コミ宣伝にもつながっています。先日もJAXA相模原キャンパスへ出張で来られていたポルトガルの方が着物体験をしてくださいました。その様子をfacebookを通じポルトガルや勤め先のあるオランダの同僚に紹介してくれました。これはとても良い反響がありました。
●外国の方にも好評なんですね。私もオペラをやっている外国人の先生が知り合いにいて、その人は着物が好きなんですけれど、体格がとてもよかったので特別に仕立ててもらったって聞きました。
「やはり、日本在住が長くなると文化としてのきものに興味を持ってくださり、仕立てられる方がいらっしゃいます。うちではYouTubeもやっていて、留学生がつるやYouTubeチャンネルにアップする動画に出演してくれたりもしています。イギリスから来られている英語の先生が、解説付きで綿入れはんてんの説明をしてくれたり、ちょっとした日本体験記みたいな内容になっています。機会あるごとに来店するお客さんに協力をお願いしては、色んな動画を撮影し“つるやチャンネル”と名付けた、Youtubeチャンネルにアップしています。韓国の方が綿入れはんてんを勧めてくれている動画もありますよ。
●着物をリメイクして、服や小物を作っている方もいらっしゃいますよね。
「サークル活動として、リメイクをやっている人達がいて、すごく工夫していて、留袖の柄を活かしたりとか、裏表逆にして作ったりしていますよね。でもそうやって興味を持ってくれるのは嬉しいです。」
●振袖や袴を着る成人の方に、着物を着る際の注意点やアドバイスがありましたらお願いします。
「具体的なことなんですけど、振袖の場合は、3つほどあります。まず1つ目は、駅の階段で引きずらないように注意してください。袖が長いのに慣れず、駅の階段で引きずっちゃう人がいるんです。2つ目は、車に乗る時、必ず袖を先に持ってあげてください。ドアに袖を挟んでしまう方がいるのです。成人式の日は特別な日なので、車に乗る場合は誰かにエスコートしてもらって、ドアは閉めてもらうくらいのつもりが良いと思いますよ。最後、3つめは雪とか雨の天候の場合。この何年か、雪の日がありましたよね。そういう必ずコート等を着てください。振袖用でなくても良いので、道中は和装コート等を着て、振袖の長い袖を入れてしまうと良いと思います。そして、コートの腰巻部分の下は、振袖の裾を端折ってしまっておく。そうすれば会場までの道中、振袖を濡らさないで行けると思います。天気が微妙だった場合、早め早めにそういう対応をしておくことですね。以上3つです。万が一、汚しちゃったら、何もいじらず洗いに出してください。特に色の濃い部分を擦ると、汚れは落ちても擦ってしまった部分が白くぼやけてしまうんです。せっかくの特別な二十歳のお祝いなので、楽しんでもらって、ハメ外して、それで汚れても洗えますので。思い出はその時にしか作れないので精一杯楽しんでください。」
●わかりました。お店をやっていて、良かったなと思う瞬間など教えてください。
「年齢や国籍関係なく色々な人が来てくれるのが一番良いことですよね。そこから輪が広がっていく。ベーゴマを通し、新しい出会いがある。TwitterやFacebookなどで、ただ発信するだけじゃなくて、ここにあるってことで、ネット上の世界とリアルな世界がぶつかりやすいと思うんです。お店なら、ふらっと入れるのかなってと思うんです。」
「変わらず、ずっと昔からのまんまで。でも少しずつ時代を取り入れて。」
●最近では、一般の人が呉服屋というものに接する機会が減ってきていますよね。
「街の呉服店とは、昔の御用聞きみたいな感じで、例えば誰かが生まれればそのお祝いの用意をして、成人になればその用意をして・・・。だからうちでは成人式用にパンフレットを配ったりという営業はしていません。お客様のお嬢さんとかお孫さんが成人だって時に声をかけていただけるような関係を普段から築けたらそちらの方がよいですよね。大体お客様が生まれた時からずっと、人生の節目節目に寄り添うことができるっていうのは、素敵なことですよね。」
●お客様に対して伝えたいことがあったら教えてください。
「呉服店っていうと入りにくいって感じる方が多いと思うんですけど、是非気軽にいらしてください。着物以外のお土産になるような手ぬぐいとか、和調の小物とかもありますので、ぜひお越しください。」
●最後に、今後の展望などありましたら教えてください。
「変わらず、ずっと昔からのまんまで。でも少しずつ時代を取り入れて。どんな世界も一緒だと思いますが、大筋の部分は変わらず残しておいて、その時代時代に合わせて変えていけばいいかなと思っています。」
取材:2015年12月
<お店インフォメーション>
住所:相模原市中央区淵野辺3-19-13
TEL:042-752-2011
FAX:042-752-5724
MAIL:info@japankimono.co.jp
営業時間:9:00~19:00